成尾整形外科病院

脊椎外科(腰・首・肩・手足)・関節外科(肘・膝・股関節)を中心とした整形外科専門病院

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胸椎疾患は見逃されやすい⁈ あなたの症状は本当に腰から?

ブログ管理人のアベルです。明けましておめでとうございます。

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新型コロナウイルスの猛威もひと段落してますね。年末年始の人の移動が多くなりますので注意が必要です。

オミクロン株による第6波が来るのでしょうか?私たちは普段からマスク装着、手洗い、うがいを努め感染予防対策を怠らないよう気を引き締めていきたいですね。アマビエさんにもお願いして!!

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 さて、今回の話題は胸椎疾患になります。整形外科の外来に来る患者さんの主訴として、頸部痛、腰痛、手足のしびれ、痛み、動かせない麻痺など様々な主訴の方が来院されます。

手のしびれだと、整形外科疾患では、頚椎椎間板ヘルニアや頚椎症など頸椎由来や胸郭出口症候群、肘部管症候群、手根管症候群などがあります。中枢側の脳からだと、脳梗塞を初めてとした疾患もありえます。

足のしびれに関しては腰部脊柱管狭窄症、腰椎辷り症、腰椎椎間板ヘルニアなどが多いですが、足根菅症候群、腓骨神経麻痺、Morton病などもあります。

 しびれ、痛みや運動麻痺などは脳から脊髄、馬尾、神経根、末梢神経までどの部位でも障害を生じても起きることがあります。現病歴から身体所見、理学

所見から画像所見を得て、診断治療をしていく必要があります。もちろん正しい診断をしないと正しい治療、症状の改善を得ることはできません。MRIをはじめとした、画像診断が発達しており、診断の基本である、神経所見や身体所見がおろそかになっているケースが散見されます。

 さて、タイトルの胸椎疾患ですが、疾患の頻度としてはかなり低いのですが、胸椎後縦靭帯骨化症、脊髄腫瘍、転移性脊椎腫瘍など早期に診断をしないと、麻痺の進行や生命予後など多大なADL障害を生じてしまうため、正しい診断、治療が求められます。胸椎疾患は頻度はすくないですが、ほとんどの症例は手術治療を要するので、診断の遅れはいわゆるDotor'delayと言われ、問題となります

 教訓的な症例です。高齢男性の患者さんですが、足のしびれ、痛みがあり近くの整形外科で腰部脊柱管狭窄症の診断で内服などの保存療法を行われてました。だんだん足が上がらない、麻痺が出てきているとのことで紹介となりました。

 理学所見としては、足があがらない、腸腰筋の筋力低下を認めました。深部腱反射である、膝蓋腱反射は亢進しており、足クローヌスも陽性でした。

 持参されたMRIでは麻痺を呈するような、馬尾、神経根の圧迫所見は認めませんでした。



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ただちに、胸椎MRI検査をオーダーして精査を進めました。

 胸椎MRIでは脊髄腫瘍を認め、脊髄を圧迫してました。胸髄硬膜内髄外腫瘍です。

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手術で、脊髄腫瘍摘出術を行いました。現在、術後1年経過してますが、麻痺は改善し日常生活に支障なく過ごされております。


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 今回の症例は偶然、胸椎の脊髄腫瘍を見つけたのではなく、病歴、身体所見で胸椎疾患を疑って画像検査を行い診断したのです。神経学的所見の基本ですが、脳や脊髄レベルと馬尾、神経根レベルの末梢神経レベルの鑑別の1つとして膝蓋腱反射があります。上位ニューロンレベル(脳、脊髄)では亢進し、末梢神経レベルでは低下、消失します。(膝蓋腱反射の髄節はL2~4)膝蓋腱反射の亢進、低下で上位ニューロンレベルの障害か末梢神経レベルでの障害化の鑑別になり、障害レベルを推測できます。(膝蓋腱反射の左右差で末梢の神経根の障害部位を推測します。)

すなわち、足のしびれや痛み、麻痺などを認め、膝蓋腱反射の亢進を認める場合は脊髄レベルより上位の障害を疑う必要があります。脳梗塞や脳出血、脳腫瘍などの可能性もありますが、頭蓋内レベルや頚髄レベルでは上肢にも症状がでます。

 下肢の症状のみで膝蓋腱反射が亢進している場合は胸椎疾患をまず疑う必要があります。ここで、間違って、腰椎の検査を行うと腰椎の変性疾患、腰部脊柱管狭窄など無症候性の狭窄がある場合は誤診してしまいます。(画像上脊柱管狭窄があっても症状のない無症候性の狭窄はたくさんあります。)

胸椎疾患を診断するための、クリアカットに説明したアルゴリズムが、星地先生の書籍の「Critical Thinking 脊椎外科」に示されておりますが、診断にはとても有用な書籍です。




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 私も何度も読み直し、とても勉強になった本です。若手整形外科医には必須の書籍です。是非購入してください。

以前にアベルが胸椎疾患の手術例について調査したところ、11例中11例が深部腱反射亢進の所見を認めてましたが、開業医の先生からの紹介などで胸椎疾患を疑われていた症例は残念ながら0例でした。(涙)

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若手整形外科医のための見逃してはいけない脊椎疾患と薬物療法のピットフォールより

若手整形外科のための講演会で胸椎疾患を診断するためのアルゴリズム、診断方法を提示しました。(星地先生の本から引用)


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正しい診断を行って、早期に脊椎専門医へ紹介できるよう整形外科医全体のレベルアップが必要と感じてます。Dotor'delayを無くしましょう!

 足のしびれ、痛みがなかなか良くならない場合は、専門医を受診して、正しい、診断、治療を受けましょう。

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