はくざん 通信   第34号 2003.8.30   ホーム  はくざん通信の目次に戻る 


腰椎の手術3

○腰椎の固定
○後側方固定 (PLF)
○固定に共通する注意
○後方棘間固定(棘間ブロック)
○前方椎体固定術 (ALIF)
○インストルメンテーションによる固定
○前方後方同時手術
○固定術と合併症

○腰椎の固定

腰椎の固定は痛みの生じる部分の動きを止め、関節部から起こる痛みを軽減するよう 計画します。
除圧術に伴って脆弱化した構造を補強するために固定を併用 することもあります。

椎間板症、分離すべり症、変性性すべり症、椎弓切除 後のすべり症などで異常(過度)な動きが起こると
痛みを生じることが
あります。このような場合には固定 をしたり、動きを制限すると痛みを軽減できます。
脊椎の動きは前方の椎間板と後方でペアになった椎間関節によって可能になっています。
ある1箇所の動きを止めるには2つの
脊椎骨間を固定することになります。一般的に1箇所のみの固定であれば
術後に動きの 制限を殆ど感じることなく効果的です。さらに必要なら、2箇所までの固定を
選択することもあります。
しかしそれ以上に固定箇所を広げると、動きの制限が強くなり、残った脊椎への負荷が強くなりすぎる
ため
痛みの軽減はあまり期待できなくなります。

脊椎の固定には、以下のような方法があります。

●後側方固定Posterolateral fusion (PLF)
●後方棘間固定Posterior interspinous fusion (PIF)
●前方椎体間固定Anterior lumber interbody fusion (ALIF)
●前方/後方固定Anterior/posterior spinal fusion
●後方椎体間固定Posterior lumber interbody fusion (PLIF)

 

○後側方固定 (PLF)

脊椎の固定にはいろいろな方法がありますが、最も 多く行われる方法は後側方固定です。
脊椎の側方(横)に骨移植をします。
歴史も長く、実績があります。
この方法では、腰背部から正中切開で10cm前後の皮膚切開を入れた場所から行います。
移植用の骨は椎弓切除術の時に取り除いた棘突起や椎弓の自家骨(自分の骨)を再利用します。
骨が不足する時には切開部下方から届く骨盤から採取したり、人工骨を使用したり することもあります。
移植骨は脊椎骨の側方、横突起の根元あたりの、血流の多い部分で上下の脊椎骨に繋がるように移植します。
当院では「すべり症」のある患者さんの一部に、この後側方固定を併用しています。
完全な固定というよりは制動を狙っています。
すべり症の「場所」の動きを制限すれば、疼痛軽減効果が期待できます。

後側方固定


○固定に共通する注意:

移植骨の中には骨を作る 「造骨細胞」と骨を解かす「破骨細胞」の2種類があります。
移植骨が成長して固定が完成するためには、患者 さま自身の協力が必要です。
●禁煙してください。ニコチンは造骨細胞にとって 毒になります。
●動きを制限してください。動きを制限したほうが 骨の成長には適しています。

固定術の後は3ケ月ほど、腰を強く曲げたり、重いものを持ち上げたり、捻(ひね)ったりしないで下さい。
大体3ケ月で固定はほぼ落ち着きますが、3ケ月経ったあとも骨は1〜2年ほど成長を続け強固な固定 となっていきます。
腰痛の再発があっても、多くは固定部ではなく、その上や下の可動部分に生じています。
固定がうまく定着しない率は10%前後です。喫煙者、 肥満者や再手術例では固定が定着しない頻度が高くなります。
感染や出血が1%から3%にみられます。


○後方棘間固定(棘間ブロック使用)

棘突起の間に人工骨(セラミック)によるスペーサー(棘間 ブロック)を入れ、脊椎骨の動きを後方から抑制します。
完全な固定ではなく、制動を目的とした、手術侵襲の少ない簡易固定です。
脊椎骨の脆弱部を補強する意味があり、脊柱 管狭窄症の一部に併用されることがあります。

固定     


○前方椎体間固定術 (ALIF)

腰部椎間板症の手術で、椎間板を取り除いた場所(脊 椎骨の椎体)に骨を移植して強固な固定を狙います。
固定は年月と共に更に安定していきます。
固定する上下の椎間板に変性がなく、腰に荷重が加わる日常生活に復帰する場合には
良い適応です。

●術前に臍の位置を目印にして、目的とする椎間板の場所をレントゲン写真で確認します。
●腹部の皮膚に切開を入れます。通常は縦切開で、正中あるいは臍の左(傍正中)に10〜15cmの切開をします。
●女性では斜めに斜切開を行うこともあります(臍の下やや左に10〜15cmの切開 を入れます)。

切開切開2

●腹部前方の正中部にある腹直筋は縦に走っているので切断せず、横へ牽引し移動させます。
 
腹部の内容は腹膜に包まれているので、腹膜と筋肉の間を進み、腹部内容は腹膜と一緒に右側に移動させます。
 
すると腰部脊椎の前面に到達できます。
●椎体骨の近くには大きな血管系(大動脈・下大静脈)やその枝の血管が走っているので注意深くこれらの血管を
 
よけていきます(手術前に静脈造影を背中から行って、あらかじめ血管の走行状態を把握しておきます)。
 
椎間板の場所を再度確認し、前縦靱帯に切り込みを入れた後、変性した椎間板内容を可能な限り除去します。
 
骨移植をする部分は、椎間板のみでなく椎体部 分まで切断面を広げます。
 
骨癒合が起こりやすいよう切断表面はきれいな平面に仕上げます。
●移植用の骨は右側の骨盤(腸骨)あるいは左側の腸 骨(斜切開の時)から自家骨を採取して準備します。
 
腹部に縦切開を行った時は、採骨部は別の皮膚切開(6〜 10cm前後)になります。
 
斜切開では、同じ皮膚切開部から採骨します。場合によっては人工骨を使用することもあります。

前方固定と切開
●移植用の骨を椎間板の代わりに入れ(打ち込み)、止血を確認して再縫合、手術を終了します。
○前方椎体間固定術の利点と注意

●腰背部の筋肉や神経系には手術侵襲が加わらない。
●移植骨には圧迫力が加わるので骨癒合を促進する。手術手技で注意が必要なのは、大きな血管系が近くにあるので
 これを損傷しないようにすることです。
文献上でのこのリスクは1%から15%です。
 当院でのこの合併症はまれです。
●術後の経過:骨の癒合が安定するには3ヶ月ほどかかります。
 ベッド上で約2〜3週間の安静の後、ギプスで4週間、
硬性コルセットで4週間、軟性コルセットで1週間とリハや訓練を
 行います。合計で術後11 〜12週で退院となる予定です。
 
(附)固定を行わない前方髄核摘出術のみの場合は、前方椎体固定術より早い経過になります。


○インストルメンテーションによる固定

金属やチタンなどの医療用の内固定具を使った固定 方法も広く行われています。

○前方後方同時手術

再手術時や強固な固定を狙う場合には前方と後方から の手術を同時に行うことがあります。
固定効果は確実になりますが、手術侵襲は大きくなります。


○その他

後方から椎体間を固定する手術(PLIF)もあります。

○固定術と合併症

移植骨が定着しない場合や感染、出血、血栓症、採骨部の脆 弱性、麻酔や全身状態に起因する
合併症が生じることがあります。
固定をする方は禁煙を必ず守って下さい。


手術の説明について

情報公開の流れに沿って、手術の説明を試みました。
米国ではインターネット上に、一般人向けの手術の説明が
公開されています。
「はくざん通信」では、このサイト(http://www.spine-health.com/topics/surg/overview/s01.html)
を参考にして本文の解説を行いました。
手術の図は(http://www.spine-health.com/dir/dir01.html)から主に引用しました。
腰椎の手術の理解のため「はくざん通信」32号、33号、34号を参照して下さい。
病気の状態は個々の患者さま毎に差異がありますが、8 割前後の方には、
この解説により理解が進むものと存じます。
患者さまの病態によっては治療期間が長期になることもあります。
                           

(編集代表:医局 野上俊光ほか)

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